現在地
  1. TOP
  2. 病気予防への取り組み
  3. 循環器病・生活習慣病予防への取り組み
  4. 研究活動
  5. 主な研究活動

循環器病予防部門 循環器病・生活習慣病予防への取り組み

健康状態の実態と動向の調査、研究

1-1. 勤労者の健康状態と生活習慣病の罹患状況の動向調査

近年、わが国の勤労者は、生活環境の欧米化に加え、社会経済情勢の悪化に伴う厳しい労働環境に曝されている。こうした状況下で、過労死を含む脳・心臓疾患に係わる労災認定件数が年々増加傾向を示している。このことから、脳・心臓疾患の発症に至らないまでの高血圧や脂質異常症等のリスクファクターの有所見率も増加していると推測されます。

しかしながら、勤労者のリスクファクターを長期間一定の精度のもとでモニタリングしている調査成績はわが国ではほとんどありません。当センターでは、一定の企業集団の勤労者を対象に、長期間、検査精度を保って定期健康診断成績を実施しています。そのデータをもとに最近32年間の身体所見の変化、特に生活習慣病関連のリスクファクターの経年的な変化を検討しました。対象は大阪府下の4企業(商社1、金融2、道路公団1)の40~59歳の男性勤労者(2008年在籍者数計2303人)です。

受診者数の推移を図1に示します。企業間で多少の差はあるものの、40歳代、50歳代ともにいずれの企業でも、受診者数は概ね1977年から90年代にかけて増加しましたが、その後、2000年代にかけては次第に減少しました。

高血圧者の頻度の推移を図2に示します。いずれの企業もほぼ同様の傾向であり、4企業計の高血圧者の頻度は、1977年には40歳代25%、50歳代39%でしたが、その後40歳代は1989年の14%まで、50歳代は1992年の23%まで年々減少しました。しかしながら、高血圧者の頻度は1990年代に増加に転じ、2008年には40歳代29%、50歳代47%となり、いずれも1977年以降で最も高いレベルに達しました。

肥満者、非肥満者別の高血圧者の割合は図3に示すように、肥満者中の高血圧者の割合、非肥満者中の高血圧者の割合のいずれも、40歳代、50歳代ともに1977年から80年代後半にかけて減少し、その後、1990年代半ばから増加に転じ、以後2008年まで増加していました。すなわち、高血圧者の頻度の推移のパターンは、肥満の有無に関わらず同様でした。このことから、1990年代以降にみられた高血圧者の増加には、肥満以外の要因が関与していると考えられました。

その背景の一つとして、われわれは、バブル経済が崩壊した1990年代前半以降の人員削減による一人当り業務量の増加や解雇不安等に伴う精神的ストレスの増大、さらには、労働時間の延長に伴う睡眠時間の短縮等の生活習慣の悪化などが勤労者の血圧上昇をもたらしている要因の一つではないかと考えています。今回の対象者における勤務時間や業務量等の労働環境や生活習慣の最近の変化をみてもそのことは十分推測できました(表略)。

次に、高コレステロール血症者の頻度を図4に示します。高コレステロール血症者の頻度は、40歳代では、1977年の20%から次第に増加し、特に1990年代前半から後半にかけての増加が顕著でしたが、その後はほぼ横ばいとなり2008年には33%でした。これに対し、50歳代では、1977年の22%からほぼ一貫して増加を続け、2008年には42%にまで増加しました。肥満者、非肥満者別の高コレステロール血症者の割合は(図5)、40歳代、50歳代ともに、肥満の有無に関わらずほぼ同様の上昇傾向を示しました。この背景としては、肥満者の増加をもたらす高カロリー食と身体活動量の不足のみならず、全体的に脂質の過剰摂取等の食事内容の偏りが進行していると考えられます。

メタボリックシンドローム関連のリスク集積者の頻度を肥満の合併の有無別に図6に示しました。肥満しているリスク集積者の頻度(図中の黒色部分)は、40歳代、50歳代ともに1990年代後半は10~11%でしたが、2002年以降に増加傾向を示し、2008年には40歳代で13%、50歳代で15%となりました。肥満していないリスク集積者の頻度(図中の白色部分)は、40歳代では1990年代後半から2000年までは肥満しているリスク集積者の頻度とほぼ同等でしたが、2002年以降は肥満しているリスク集積者の頻度よりも低率となりました。これに対し、50歳代では、肥満していないリスク集積者の頻度は肥満しているリスク集積者の頻度よりも、2008年に至るまで一貫して高率でした。このことから、勤労者の健康管理対策としては、肥満者のみに偏らない生活習慣病予防対策が重要であると考えられました。

まとめますと、今回の対象企業では、1990年代以降、勤労者の血圧値、総コレステロール値はいずれも上昇しており、その上昇傾向は2000年代の最近まで続いていることが明らかとなりました。特に高血圧と高コレステロール血症の頻度が肥満の有無に関わらず近年顕著に上昇しており、勤労者の循環器疾患発症リスクは増大していると考えられました。今回の対象企業は、毎年健診を受診し、健診結果にもとづく保健指導を継続してきた集団であることを考慮すると、健康管理体制が十分でないとされる中小企業の勤務者の健康状態は、本研究成績よりもさらに悪化しているのではないかと懸念されます。今後、様々な職種や従業員規模の企業において健康状態の実態を明らかにするとともに、労働環境の改善を含めた包括的な予防対策の早急な展開が望まれます。

図1. 受診者数の推移

図:受診者数の推移

太線が4企業計の数。細い線が各々の企業での数。

図2. 高血圧者の頻度

図:高血圧者の頻度

高血圧者:最大血圧値≧140mmHg, 最小血圧値≧90mmHg、降圧剤服薬中
太線が4企業計の頻度。細い線が各々の企業での頻度。

図3. 高血圧者の頻度の推移(4企業計)

図:高血圧者の頻度の推移(4企業計)

図4. 高コレステロール血症者の推移

図:高コレステロール血症者の推移

高コレステロール血症者:血清総コレステロール値≧220mg/dl and/or 服薬中
太線が4企業計の頻度。細い線が各々の企業での頻度。

図5. 高コレステロール血症者の推移(4企業計)

図:高コレステロール血症者の推移(4企業計)

図6. リスク集積者の頻度の推移(4企業計)

図:リスク集積者の頻度の推移(4企業計)

※リスク集積:血圧高値、脂質異常症、高血糖のいずれか2つ以上


病気予防への取り組み