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循環器病予防部門 CIRCS研究報告

<報告>高感度CRP濃度と心房細動発症との関連

 心房細動は脳梗塞や心不全等の重大な循環器疾患に繋がりやすく、死亡率も高くなることが知られており、高齢化が進展する我が国では、心房細動の予防が重要です。

 近年、体の中の炎症と心房細動発症との関連が海外の研究により報告されました。しかし、これらの報告のほとんどは欧米人を対象とており、アジア人を対象とした研究は少なく、日本の地域住民を対象とした研究はありませんでした。また、この関連性が性別や肥満、高血圧、喫煙習慣の有無により変化するかどうかを十分に調べた研究はありませんでした。以上のことから、本研究では日本の地域住民における炎症と心房細動発症との関連を調べることを目的とし、血液検査により測定される高感度CRPという全身性炎症の指標と心房細動発症との関連を調べ、さらに、この関連性が性別や肥満、高血圧、喫煙習慣の有無によって変わるかどうかの交互作用の有無を調べました。

 本研究では、CIRCS研究の地域である大阪八尾市南高安地区、秋田県井川町、茨城県筑西市協和地区に在住し、2002~2008年の循環器健診(ベースライン調査)を受けた受診者の中で、高感度CRPを測定し、尚且つ、高感度CRPが10 mg/L以上の炎症がなく、心房細動や脳卒中、心臓病の既往がなく、その後の追跡調査に参加した対象者6517名の男女を研究対象者としました。高感度CRP濃度の五分位により研究対象者を第1五分位群(中央値0.17 mg/L; 1312名)、第2五分位群(0.28 mg/L; 1310名)、第3五分位群(0.37 mg/L ; 1284名)、第4五分位群(0.80 mg/L; 1304名)、第5五分位群(2.04 mg/L; 1307名)にグループ分けし、協和地区では2017年まで、井川町では2018年まで、南高安地区では2019年まで追跡調査を行いました。これらの調査結果をもとに、Cox比例ハザードモデルを用いて、心房細動発症のハザード比(95%信頼区間)を算出しました。このハザード比は、年齢、性別、BMI、高血圧の有無、総コレステロール値、中性脂肪、血糖値区分、喫煙習慣、飲酒量、降圧剤や脂質異常症治療薬の使用の影響を考慮して求めました。さらに、このハザード比に対する性別、肥満、高血圧、喫煙習慣の交互作用の検定を行いました。

 中央値11年間の追跡期間中、第1五分位群の心房細動発症ハザード比を1.0とした場合の各群のハザード比(95%信頼区間)は、第2五分位群は2.54(1.17-5.50)、第3五分位群は2.28(1.06-4.93)、第4五分位群は2.92(1.37-6.23)、第5五分位群は2.77(1.30-5.91)と、いずれも統計学的に有意な高値を示しました。この結果から、高感度CRP濃度が第2五分位以上の人は第1五分位の人に比べて2.3~2.9倍の心房細動発症リスクがあることが分かりました。欧米人を対象とした先行研究では、高感度CRP濃度が3.0 mg/Lを超える場合に心房細動発症リスクが認められたと報告されていましたが、日本の地域住民を対象とした本研究では高感度CRP濃度が1.0 mg/L未満の場合においても心房細動発症リスクがある可能性が示されました。さらに、この関連性に対する性別や肥満、高血圧、喫煙習慣における交互作用は認められませんでした(P >0.05)。従って、高感度CRP濃度と心房細動発症との関連は、性別や肥満、高血圧、喫煙習慣の有無に関係なく認められることが分かりました。

 本研究により、日本の地域住民においても高感度CRP高値は心房細動発症リスクを高める可能性が示され、この関連性は性別や肥満、高血圧、喫煙習慣に関係なく認められる可能性が示されました。この研究成果は、専門誌(Journal of Atherosclerosis and Thrombosis 2021年2月)に公表されました。



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