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循環器病予防部門 CIRCS研究報告

<報告>網膜の血管の所見と要介護認知症の発症リスク

 日本は、西欧諸国と比べ、脳内の血管異常によって発症する認知症が多いことが知られています(西欧諸国8-15%に対し、わが国は22-35%)。


 秋田県井川町では、昭和38年(1963年)より「眼底検査」を健診にいち早く取り入れ、循環器疾患の予防、とくに脳卒中の予防対策に役立ててきました。網膜の血管径はおよそ0.10~0.15 mmで、体の中で唯一、肉眼で観察できる細い血管です。脳内の細い血管は、径0.10~0.30 mmと網膜の血管と同じ程度ですが、肉眼で観察することは困難です。網膜の細い血管は、構造や発生学的由来、心臓からの血圧のかかり方まで、脳の細い血管とよく似た特徴をもっています。詳しい画像が得られるMRIでも、脳や網膜の細い血管を捉えることは難しいため、眼底検査は、脳の細い血管を間接的に評価する方法としても用いられます。

 網膜の細い血管には、さまざまな異常所見がみられることがあります(写真)。しかし、それらの異常所見が将来の認知症の発症と関連するか、これまでわが国で調べられた研究はありませんでした。われわれは、コホート内症例対照研究という方法で、網膜の細動脈狭細(血管が細くなる所見)と異常所見の数は、将来の要介護認知症の発症を予測する所見である可能性を明らかにしました。以下に詳細をご紹介します。なお、本研究成果は、Journal of Atherosclerosis and Thrombosisという医学専門雑誌に公表されました。


 1983-2004年の間に眼底検査を受けた秋田県井川町の住民3,718人のうち、1999-2014年の間に要介護認知症を発症した人は351人でした(男性125人、女性226人)。要介護認知症の発症者の網膜血管の所見(発症の約11年前の所見)を、性別・年齢・受診年を合わせた702人の対照群(要介護認知症を発症していない人)と比べました。細動脈狭細の所見がある人は、ない人と比べて、要介護認知症に1.7倍なりやすく、また、網膜血管の異常所見の数が多いほど要介護認知症を発症しやすいことがわかりました(図)。さらに、この関連は、過体重、高血圧、高血糖、脂質異常、喫煙習慣の有無の影響や、要介護認知症を発症する前の脳卒中発症の有無を考慮しても認められました。

 細動脈狭細は長期間の高血圧によって生じやすいと考えられています。他の先行研究もふまえると、若・中年期から高血圧予防を心がけることで、高齢期の細動脈狭細の発生を抑え、ひいては認知症の発症予防につながると考えられます。


                写真 網膜血管の代表的な所見




             網膜血管所見と要介護認知症の発症との関連



 本研究の一部は基盤研究(C)「網膜情報の活用による認知症発症リスク評価に関する研究」(研究代表者・北村明彦、研究分担者・木山昌彦、研究協力者・陣内裕成)、および基盤研究(A)「社会環境から個人要因の認知症発症プロセスの解明に関する社会疫学研究」(研究代表者・磯博康、研究分担者・木山昌彦)、認知症対策総合研究「要介護認知症の危険因子・抑制因子の探求に関する前向き疫学研究」(研究代表者・山岸良匡)により実施されました。


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