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循環器病予防部門 CIRCS研究報告

<報告>慢性腎臓病の発症と血清アルブミン値および高感度
C反応性たんぱく質(高感度CRP)値との関連性

 慢性腎臓病(CKD;chronic kidney disease)とは、腎臓の働きの目安であるGFR(glomerular filtration rate)が健康な人の60%以下に低下する(GFRが60 mL/分/1.73㎡未満)か、あるいは蛋白尿が出るといった腎臓の異常が続く状態を言います。CKDが進行すると、末期腎不全となって、透析治療が必要となります。CKDの患者数は年々増加傾向にあると報告されており、CKDの早期発見・早期治療のために、新たな危険因子を明らかにし、より早期からの保健医療介入を行うことが重要と考えられます。


 また、CKDは心血管疾患の危険因子とされており、その機序の一つとして、体内での炎症反応が挙げられています。炎症は腎機能障害や動脈硬化の進行に関与していますが、日本人の地域住民では、欧米人に比べ炎症を示す指標の一つである高感度C反応性たんぱく質(高感度CRP)の値が低いと報告されています。血清アルブミン値と高感度CRP値は、炎症の状況によって変動する指標ですが、これまで日本において長期的にCKD発症リスクとの関連を検討した報告は見当たりません。


 本研究では、研究開始時に腎臓病の既往歴がない一般地域住民を対象として、血清アルブミン値および高感度CRP値とCKD発症との関連を調べました。


 CIRCS研究地域である大阪府八尾市南高安地区と秋田県井川町の2地域在住の一般住民で、腎・肝疾患の既往がなく、ベースライン時(2002-03年度)にeGFRが60 mL/分/1.73㎡以上であった40−69歳の男女2,535名の循環器健診受診者を対象に、その後のCKD発症を2013年度までの健診結果を用いて追跡しました。CKD発症はeGFR低値(60 mL/分/1.73㎡未満)と定義し、ベースライン時の血清アルブミン値および高感度CRP値とその後のCKD発症との関連を分析しました。解析において、血清アルブミン値と高感度CRP値を四分位に分け、第1四分位に比べ、その他の群ではCKD発症リスクがどのように異なるのかを検討するために、性別、地域、年齢、eGFR値、高感度CRP値(または血清アルブミン値)、収縮期血圧値、降圧薬服用の有無、糖尿病の有無、総コレステロール値、脂質異常治療薬服用の有無で調整したハザード比(リスク比)を算出しました。


 血清アルブミン値が最も低い第1四分位と比較すると、第4四分位ではCKD発症ハザード比が0.52(0.38-0.72)と低値を示しました(図1)。



 高感度CRP値が最も低い第1四分位と比較すると、第4四分位では、CKD発症ハザード比が1.52(1.10-2.08)と高値を示しました(図2)。



 一般的に、血清アルブミン値の基準値は4.0 g/dL以上とされていますが、今回の対象者のように血清アルブミン値が正常範囲内であっても、血清アルブミン値がもっとも高い群においてCKD発症リスクが低くなっていました。また、高感度CRP値については、炎症反応の存在が疑われる高値群において、CKD発症リスクが高くなっていました。


 本研究により、血清アルブミン低値と高感度CRP高値は、それぞれ独立してCKD発症のリスク因子である可能性が示されました。この結果はJournal of Atherosclerosis and Thrombosis 2016;23:1089-1098に公表されました。


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