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循環器病予防部門 CIRCS研究報告

<報告>軽症高血圧からの脳卒中発症者の割合が増加

 血圧が高いほど脳卒中になりやすいことはよく知られています。これまでの高血圧対策の普及と食生活の改善によって、日本人の高血圧は、重症レベルの割合が低くなってきました。そのため、脳卒中の発症率・死亡率は低下してきました。その一方で、軽症高血圧の人の割合が高くなってきたために、軽症高血圧からの脳卒中発症が目立ってきています。つまり、脳卒中の発症を予防するために、高血圧対策が重要であることに変わりはありません。そして、「高血圧だけれど軽症だから、様子を見ていても大丈夫」と安心できるものではないことが再確認されました。過去から現在にかけて、血圧レベルと脳卒中発症との関係がどのように変化しているかを調べた研究について以下にご紹介します。


 CIRCS研究では、4地域(秋田県井川町、大阪府八尾市南高安地区、高知県野市町〔現・香南市野市町〕、茨城県協和町〔現・筑西市協和地区〕)の住民健診のデータを1960年代から毎年蓄積してきました。このデータを使って研究しました。

 血圧値は、低い方から順に至適血圧、正常血圧、正常高値血圧、軽度高血圧、中等度高血圧、重度高血圧の6段階に分けました。高血圧治療中の人も健診時の血圧値によって、それぞれの血圧レベルに分類されています。そして、至適血圧の人たちに比べて、血圧レベルの高い人たちは、その後約10年間で何倍脳卒中になりやすいか(相対危険度 Relative Risk;RR)を調べました。

 さらに、健診を受けてから脳卒中を発症した人たちの健診での血圧レベルの分布(全体に占める構成割合)を調べ、発症者全体の中で、どの血圧レベルからの発症者が多いか(集団寄与危険割合〔Population attributable fraction;PAF〕=構成割合×〔RR-1〕/RR)を計算しました。PAFの意味は、脳卒中発症者全体の何%が、各血圧レベルの人たちが至適血圧でなかったことによって過剰に起こっているか、別の言い方をすると、各血圧レベルの人たちがもし至適血圧であったとしたら、何%の脳卒中発症を予防出来た可能性があるかを表すものです。これらの推移を40~69歳男女について、1960年代から1990年代の3期にわたって調べました。対象人数は、1期(1963~1971年)5,439人、2期(1975~1984年)9,945人、3期(1985~1994年)11,788人です。

図1.血圧レベル別にみた脳卒中発症率と相対危険度(多変量調整ハザード比)の推移


 図1の棒グラフは、血圧レベル別に、年間千人あたりの脳卒中発症率を表したものです。1期から3期にかけて、正常高値以上の血圧レベルでの脳卒中発症率は減少傾向にありますが、血圧レベルが高いほど脳卒中発症率が高くなるという関係は、どの時代にも共通して見られます。下段の表は、至適血圧を基準の1とした場合、各血圧レベルが何倍脳卒中を発症しやすいか(相対危険度)を表しています。ここでは、他の脳卒中発症に関連する多くの要因(年齢、性別、肥満度、総コレステロール、心電図所見、降圧剤服薬の有無など)を統計学的に調整した相対危険度(多変量調整ハザード比)を示しています。血圧レベルが高いほど脳卒中発症リスクが高くなるという関連は、血圧正常域(至適血圧~正常高値)内においても、統計学的有意差をもって認められました。

図2.健診受診時の血圧レベル別にみた脳卒中発症者の構成割合とPAFの推移


 図2の棒グラフは、脳卒中発症者における健診受診時の血圧レベルの分布を示しています。1期から3期にかけて、重症高血圧の割合が減少し、軽症高血圧の割合が増加していることがわかります。下段の表は、PAF(%)を示しています。脳卒中発症に対するPAFが大きい血圧区分は、1期から3期にかけて、重症・中等症高血圧から軽症高血圧へとシフトしている様子がわかります。また、PAFの総計は、1~3期を通じて50%以上あることがわかります。

 以上の図1・2の結果は、健診時に高血圧治療中だった人を除いても同様の結果でした。


 これらの結果をまとめると、日本人の血圧レベルがかつてより低下し、脳卒中発症率・死亡率が減少してきた現代においても、脳卒中発症に対する血圧の影響は未だ大きくて根深いことを物語っています。さらに、「軽症高血圧」のPAFが増加していることから、地域全体の脳卒中予防を考えるうえでは、重症・中等症高血圧の対策に加えて、高血圧の早期管理あるいは一次予防の重要性が一層増していることを裏付けています。


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